「ヒト ー異端のサルの一億年」島泰三著 |
しかもその遺伝子の流れは、ネアンデルタールの雄からホモ・サピエンスの雌への一方的なものだった。」
「この裸のサルには、もう一つの相貌があった。顔の皮膚が薄いために、それを動かす皮筋は、多彩な表情を作りだすことができた。」
「ホモ・サピエンスがその起源地から生息地を拡大しようとしたとき、その先には常に、生態系の王者として君臨する王獣ホモ・エレクトゥスと格闘者ネアンデルタールが立ち塞がっていた。」
「最初の出アフリカに失敗したホモ・サピエンスは、10万年前にすでに紅海でカキやその他の貝類、甲殻類などを漁っていたが、ここでは、大型のシャコガイはホモ・サピエンスの到着直後にいなくなっており、ホモ・サピエンスの特徴であるオーバー・キル(資源の回復不能なまでの利用)が起こっていた。この資源利用方式もまた、ホモ・サピエンスがきりもなく、その生息地を拡大しなくてはならない理由だった。」
「土器は煮炊きによって食物を決定的に変えた。土器は消化と衛生の夢を同時にかなえる万能の道具だった。その起源について「最古の土器は日本製」とよくいわれるが、東アジアではほとんど同時期に南中国(18000年前)、シベリアと日本列島(16500年前の青森県大台山元Ⅰ遺跡〜12000年前の愛媛県上黒岩岩陰遺跡)で使われるようになった。それでもメソポタミアの一万年前よりも明らかに古い。」
「イヌの脳は同じ大きさのオオカミの脳に比べて30パーセントほど軽い。野生種のイヌが家畜のイヌになったとき、脳は萎縮した。ではそのとき、ホモ・サピエンスに何が起こったのか?
3万〜2万年前のネアンデルタールやホモ・サピエンスと比較すると、現代人の脳容量は150cc(10パーセント)も少なくなっている。農耕・牧畜による栄養不足とイヌに精神活動の一部をゆだねたためではないだろうか?
人類学者たちは、イヌについては「家畜化」と語り、人の側については「自己家畜化」と、あたかもそれが自分で選び取った成果でもあるかのように語る。だが、それは間違いだ。イヌがホモ・サピエンスに家畜化されたように、ホモ・サピエンスはイヌに家畜化されたのだ。」
「表層的な観察では日本社会が「二重構造」に見えるのは、無数の源流を持つ日本列島住民の社会が国家として統一されたのが、稲作文明の流入以降だからである。」