「脳はすすんでだまされたがる マジックが解き明かす錯覚の不思議」より |
「芸術家は錯視という現象をルネサンス期の15世紀から利用してきた。当時の画家が、平らなキャンバスが三次元である、あるいは静物画の一連の筆づかいが器に盛られた、おいしそうな果実であると脳に思い込ませる技法を発見した。線遠近法ー平行線が近づくように描くと奥行きと距離感の錯覚が生まれるという概念を確立したのである。」
「マジシャンの最大の武器は、私たちが予測する生き物であることだ。」
「私たちは予測にもとづいて話すことを学ぶ(中略)
同じことは四角、聴覚、触覚、認知機能(信念など)すべてに当てはまる。なんと言っても、信念は学習された予測の構成概念である。」
「実際のところ、あらゆる偉大な芸術は人の予想を裏切る。映画を観にいくと、20ほどの同じ筋立てが何度も繰り返される。だから映画は先が読めるから、つまらないこともたびたびだ。しかし有能な監督はあなたの予測をはくがらかす。あなたは驚き、楽しむ。同じことは絵画、詩歌、小説、偉大な手品についても言える。」
「人の心の弱点を研究する認知神経科学者として私たちは、迷信を相関の錯覚ー実際にそれを示す証拠がないにもかかわらず事象間に関連があると考える現象ーの一例と考えている。マジシャンや霊能者に利用される相関の感覚は、ペテン、呪術その他のインチキ行為の源泉になっている。実際に重大な災いをもたらすこともある。」
「彼女はスティーブより赤ちゃんのオムツをよく取り替えると考えている。実際は、どちらも間違えているのだ。私たちはどちらも赤ちゃんのオムツをほぼ同じくらいの頻度で取り替えている。ところが、それぞれの心のなかでは、自分自身の貢献と犠牲の方が強調される。というのも、私たちは他人よりも自分の行動をよく記憶しているからだ。第三者にかかわる事実間の相関よりも、自分が記憶している事実間の相関の方が強いと誤って判断してしまう。」
「脳はすすんでだまされたがる マジックが解き明かす錯覚の不思議」スティーブン・L・マクニック、スサナ・マルティネス=コンデ、サンドラ・ブレイクスリー著、鍛原多恵子訳より