フランシス・ベーコン展図録「フランシス・ベーコンとフリードヘルム・メネケスの対話」より |
B:その暴力とは一体なんなのでしょうか。あなたも毎日、新聞を読むでしょう。私たちの普段の生活の中で毎秒といってもいいほど起きている暴力ほど、私は暴力的ではありません。誰もが私の作品の暴力性を語ります。皆この日常生活については考えていないのです。まったくもって馬鹿げた話です。何も暴力について解っていないのです。芸術は生活から切り離されたものではありません。でも、実際の現実世界での暴力をそのまま表現することはできないでしょう。どのみち芸術における暴力というのは何かまったく違ったものなのです。それはテクニックに由来するもので、そこに表現されたものに因るわけではありません。だから多くの絵というのは何の役にも立っていませんね。
M:それでは描くときは、暴力を被ることと向き合っているのでしょうか。それとも暴力を振るう方の立場になるのですか。
B:私は暴力については考えません。可能な方法でイメージを強く描こうとするだけです。
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M:人生は殺すか殺されるかどちらかしかないとお考えなのでしょうか。
B:そんなことはないでしょう。ほとんどの人間は、人生成り行きに身を任せています。皆あてどなく漂っているのです。私は人生なんて無意味な出来事だと思います。たとえ何か自分自身にとって意義のあるものを生み出すことができたとしても、そんなことに意味はないのです。その生み出す行為は自分自身でやるしかないことです。